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概要:世界中でインフレが問題になっている。日本は例外なのかと言うと、そうでもない。10月の国内企業物価(CGPI)は前年比プラス8.0%、輸入物価は同プラス38.0%と、いずれも41年ぶりの上昇率である。国際商品市況の高騰や円安が背景となっている。
門間一夫
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[東京 2日 ロイター] - 世界中でインフレが問題になっている。日本は例外なのかと言うと、そうでもない。10月の国内企業物価(CGPI)は前年比プラス8.0%、輸入物価は同プラス38.0%と、いずれも41年ぶりの上昇率である。国際商品市況の高騰や円安が背景となっている。
確かに消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の10月分は、前年比プラス0.1%と相変わらず弱い。しかし、菅義偉前首相の置き土産である携帯電話料金の引き下げが、足元の消費者物価をマイナス1.5%ポイントも押し下げている。その特殊要因を除けば、消費者物価は既に1.6%も上昇してい。2015年6月、東京で撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)
確かに消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の10月分は、前年比プラス0.1%と相変わらず弱い。しかし、菅義偉前首相の置き土産である携帯電話料金の引き下げが、足元の消費者物価をマイナス1.5%ポイントも押し下げている。その特殊要因を除けば、消費者物価は既に1.6%も上昇しているのだ。
<来年4月以降、2%接近の公算>
来年4月になれば、携帯電話料金のマイナス分が3分の2程度は消える。そのころには、輸入物価高騰の影響も波及する。米国の利上げが近づき、円安がさらに進む可能性もある。新型コロナウイルス・オミクロン株の動向は気になるが、出遅れていた国内消費が回復すれば、それも物価にはプラスである。
こうした様々な要因がやや強めに働けば、来年4月以降、消費者物価の前年比は2%に近づくか、あるいは2%に達してもおかしくない。異次元緩和の10年目にして、2%インフレが初めて現実味を帯びるのである。
もっとも、「Go Toトラベル」が再開されれば、それが宿泊料金の低下要因となる。燃油の卸売り価格を抑えるための支援も、経済対策に盛り込まれた。こうした政府の政策努力により、結局は2%インフレには届かない可能性が高そうではある。それでも、1%を超える物価上昇がある程度続くだけでも、日本ではたまにしか起こらない立派な「インフレ局面」である。
<中長期的な予想インフレ率は上がらない>
そうした来年の物価上昇は、2%物価目標達成への足掛かりとなるのだろうか。結論から言えば、その可能性はゼロに近い。
日銀の公式見解を筆者なりに解釈すれば、2%物価目標の達成に向けて想定されているのは、次の「3段階メカニズム」である。第1段階として、景気の改善など何らかの理由により、まず、実際の物価がある程度上昇する。
すると第2段階として、人々は中長期的な予想インフレ率を徐々に引き上げていく。こうして人々の値上げ許容度が増していき、第3段階として、実際の物価がさらに上昇して2%に至る。
この一連のメカニズムにおける決定的な分岐点は、第2段階が作動するかどうかである。この第2段階は、現実に合わせて人々が将来予想を変えていく過程のことなので「適合的な期待形成」と言われている。
異次元緩和の当初、日銀は「フォワードルッキングな期待形成」が働くと考えていた。それが働くなら、物価目標への強いコミットメントだけでも人々の期待がかなり変わり、2年もあれば2%程度のインフレなら達成可能のはずであった。
しかし、その後の現実は良く知られているとおりである。「フォワードルッキングな期待形成」は日本ではあまり働かない、ということを今は日銀も正しく認識している。
それでも日銀がなお堅持しているのは「適合的な期待形成」は働くという前提である。だからこそ、当初思っていたよりは時間がかかっても、いずれ2%物価目標は達成可能との筋書きになっているのである。
先ほど述べたように、消費者物価は来年春から夏にかけて、ほぼ確実に高い上昇率になる。第1段階はもうすぐ来るのである。そこで第2段階、すなわち「適合的な期待形成」が働くかどうかが、来年は試される年になる。
ただし、これが試されるのは今回が初めてではない。過去20年程度の間に、物価が上がったことは3回あった。1回目は2008年で、消費者物価の前年比が一時2%を超えた。2回目は2014年であり、消費税率引き上げの影響を除いても、物価は1.5%程度まで上昇した。3回目の2018年も1%程度までは上昇した。
これら3回いずれにおいても、中長期的な予想インフレ率は上昇しなかった。第1段階から第2段階へバトンは渡らず、いずれも元の低インフレに戻った。このトラックレコードを虚心坦懐に受け止めれば、来年の第1段階も、第2段階に進みそうにはない。「適合的な期待形成」は今度も作動しないのである。
ちなみに消費者物価の「加重中央値」という指標が日銀から公表されている。これは、消費者物価を構成する個々の品目を、上昇率の順に並べた時、ウエイトベースで中央に当たる品目の価格上昇率のことである。日本人の消費バスケットの「ど真ん中」の価格の動きなので、究極の「基調的な物価上昇率」だと言える。
その加重中央値の実際の動きを見ると、過去20年間の最高がわずか0.2%である。先ほど述べた2008年、2014年、2018年のような物価上昇局面でも、加重中央値は0.2%までしか上がらなかった。
「本当のコア」の物価上昇率は、何があってもゼロから離れない驚くべき安定性を保っているのである。この加重中央値が物語るように、日本のゼロインフレには強い磁力のようなものがある。一時的にゼロインフレから離れることはあっても、結局はそこへ引き戻されていく。
<金融緩和への批判、強まっても動かない日銀>
この「ゼロインフレの磁力」の正体はいったい何なのであろうか。それを理解するには、日銀のエコノミストたちによって書かれた「近年のインフレ動学を巡る論点:日本の経験」(2019年6月)というワーキングペーパーが参考になる。
このペーパーは2年以上前に作成されたが、日本の低インフレを巡る多様な論点をバランスよくまとめており、異次元緩和の経験も踏まえて書かれた物価研究サーベイとして、今日においても最も優れたペーパーだと思う。
さて、そのペーパーでは、日本で中長期的な予想インフレ率が変わりにくい理由として、1)長期にわたる経験への依存、2)規範(ノルム)、3)合理的無関心──の3つの仮説を挙げている。
1)は特に説明を要しないだろう。2)の「規範(ノルム)」とは、例えば「物価は上がらないし、上がるべきでもない」というように、価値観的な要素も含めて社会に根付いた考え方である。
3)の「合理的無関心」とは、人々が期待の形成に当たって、重要ではないと考えられる情報には最初から関心を払わないことである。これは、情報処理能力に限りがある人間にとって、無駄な時間を使わずに生きる合理的な行動様式である。
これら3つの仮説は背反的なものではなく、むしろ補完的に働く。例えば、低インフレを長く経験した社会では「値上げは良くないこと」という規範性が次第に強まっていく。そうなると「これからも低インフレが続くはずだ」という予想が結果的に最も当たりやすくなるので、足元でたまたま起きている物価変動などは、いちいち将来予想に組み込まないことが合理的になる。
これらの仮説を使えば、「何があっても最後はゼロインフレに戻る」という日本の物価の特徴がよく理解できる。しかし、日銀にとってこれほど不都合なことはない。「合理的無関心」仮説が正しそうだということは「適合的な期待形成」が働かないということであり、日銀の公式見解は最も重要な分岐点で間違っていることになる。
2%物価目標は、いつになれば達成されるのかという「when」の問題ではなく、そもそも達成されるのかという「if」の問題である可能性が高いのだ。
来年、消費者物価が実際に高めの上昇率を示すようになるのは、参院選も間近に迫った時期であり、岸田文雄政権にとってはやっかいだ。最近は「悪い円安論」も盛んなので、日銀の金融緩和に対する批判的な論調が強まる可能性もある。
しかし、やや長い目で見れば「てこでも動かないゼロインフレ」という現実が、来年変わる理由はない。ならば日銀の金融緩和も「てこでも動かない」状態が続くだろう。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラム向けに執筆されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*門間一夫氏は、みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト。1981年に東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。86年に米ウォートンビジネススクール留学。調査統計局長、企画局長を経て、12年に日銀理事(13年3月まで金融政策担当、以降、国際担当)を歴任。16年に日銀を退職し、みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト。21年4月から現職。
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